朝霞市のKDDI基地局問題にみる情報の非開示、黒塗りに、条例にも違反か? 被曝の実態を把握できない住民、

執筆者薮哲哉

埼玉県朝霞市から情報公開請求の手続きを経て、約1400ページの資料を入手した。携帯電話基地局に関する事情と、市の建築関係の部署と電話会社との癒着がないかを調査するのが目的である。

予想していた通り、基地局に関連した情報のうち、肝心な部分はすべて黒塗りになっていた。基地局の仕様を示す資料はいうまでもなく、基地局の設置場所までも、非公開になっている。わたしは朝霞市内に設置されたすべての基地局の場所を特定する資料の開示を求めたのだが。

基地局に関する情報は、電話会社はいうまでもなく、総務省や電波を管轄する「役所」に問い合わせても、まったく応じない。地方自治体も、総務省の方針に従って非公開にしている。中央に歩調を合わせている。

そのために基地局周辺に住む住民は、自分がどのような電磁波を被曝しているのかすら知ることができない。電話会社や「役所」は、それを把握しているわけだから、住民は一方的に電磁波による人体影響を調べるためのモルモットにされていることになる。

しかも、朝霞市とKDDIの公有地の「賃貸」契約期間も開示されないので、住民はこの先何年のあいだ電磁波を被曝するのかも知りようがない。

住民の間に健康被害が発生した場合、どう対処するのかを電話会社に問い合わせても、総務省が定めている電波防護指針を遵守しているから、健康被害は起こり得ないという返事しか返ってこない。専門家でも断言しないことを、電話会社の社員が平気で口にするのだ。

無線通信網の構築事業を民間企業主導で実施すると、朝霞市のような問題が起きかねない。新自由主義政策の欠点が、朝霞市でも露呈している。

ちなみに朝霞市の条例では、生命にかかわる情報は開示しなければならない。

◆◆◆
電磁波問題の視点は、第一次的には電磁波による人体影響の検証である。わたしもそういう視点でトラブルが起きた現場を記録してきた。しかし、朝霞市のKDDI事件の取材を通して異なった視点が見えてきた。

①なぜ基地局に関する情報に関しては開示されないのか

②なぜマスコミはこの問題をほとんど報じないのか

③電話会社の企業コンプライアンス 

④電話会社と公権力との癒着

新たに考察しなければならない点が多い。

◆①◆
数年前に基地局の情報が開示されない理由を「役所」に問い合わせたことがある。その時に職員は、緊急時の連絡システムがテロによって破壊されるのを防止するためと返答した。が、この答は説得力がない。携帯電話の情報は、基地局からケーブルによって運ばれるから、災害でケーブルが切断されれば、基地局が残っていても通話できなくなる。そのことは近年の災害で何度も立証されている。

それに基地局の仕様を公開することが、テロにつながるという論理もかなり飛躍している。基地局そのものは肉眼で確認できるわけだから、地図上でその位置を開示しても何の支障もない。

◆②◆
基地局問題をマスコミが報道しないのは、電話会社をはじめ電磁波関連の業界が大口の広告スポンサーであるからだ。携帯電話のシステムは、固定電話のシステムに比べて電力消費量が多い。そのために電力会社も、電磁波問題が指摘されることを嫌う。将来的に、自家用車の自動運転の導入を予定している自動車産業も、マスコミの大口広告主である。

やや古い資料になるが、次に示すのは、2008年度の広告ランキングである。

1、パナソニック 905億円
2、トヨタ 882億円
3、本田技研 881億円
4、花王 557億円
5、KDDI 430億円

電磁波関連の企業が上位を占めているのである。

 ◆③◆
電話会社の基地局設置の手口を観察するとき、わたしは「侵略者」を連想する。外部から大手を振って乗り込んできて、基地局を設置する。住民から抗議されると、形だけの「説明会」を開催して、強引に基地局設置を進める。住民が、情報を開示しろと迫っても、「企業秘密」を理由に情報開示には応じない。そんな傾向が顕著に見られる。

現在はさすがになくなったが、1990年代には熊本や福岡で、基地局設置を阻止しようとした住民たちを、電話会社がガードマンを使って排除したり、「工事妨害」で仮処分を申し立てた事件もある。住民にしてみれ、電話会社に対して、「ここから出て行け!」という気持ちだが、電話会社は「占領」が自分の特権であるかのように居座り続けることが多い。

電話会社の実態は、沖縄の米軍と変わらない。

 ◆④◆
公権力との癒着もはなはだしい。 電話会社から政治献金が贈られている。KDDIの場合は、最近は年間で600万円という記録が残っている。これは自民党向けの献金である。

NTTドコモの場合は、労組の政治団体「アピール21」を通じて、(旧)民主党系の議員に献金を行っている。

電磁波問題は、与党も野党も解決能力がない。

献金の見返りなのかどうかは不明だが、日本政府は国策として、無線通信網の整備を打ち出している。それゆえに総務省が定めている電波防護指針も、世界一ゆるい。

日本:1000μW/㎠
米国:1000μW/㎠
国際非電離放射線防護委員会:900μW/㎠
イタリア10μW/㎠
スイス:6.6μW/㎠
欧州評議会:0・1μW/㎠

日本の電波防護指針は、1989年に定められた。数値を設定するに際して、参考にしたのは、それ以前の古い研究データである。当時は、電磁波には遺伝子毒性はないとされていた。その後、電磁波の研究が進み、現在では電磁波の類は、ガンマ線から送電線の低周波電磁波まで、遺伝子毒性があると考えるのが常識となっている。

欧州の国々は、新しい研究でマイクロ波の人体影響が否定できなくなったから、規制値を厳しくしていったのである。その結果、日本とは桁違いに厳しくなった。

ところが日本政府は、新しい研究成果を無視することで、電話会社へ便宜を図ってきたのだ。

 

カテゴリー: 未分類 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です