■加藤やすこ(環境ジャーナリスト、いのち環境ネットワーク代表)
(1)5Gのしくみ
私たちは携帯電話やスマートフォン、スマートメーター、Wi-Fiなど、さまざまな無線周波数電磁波を使っているが、国際がん研究機関(IARC)はこの周波数帯を「発がん性の可能性がある」と認めている。その他にも、不妊や流産、発達障害、睡眠障害、電磁波過敏症などさまざまな健康問題を起こすと指摘する論文が増え続けている。
今年から始まる第5世代移動通信システム(5G)では、広いエリアをカバーする「マクロセル」には既存の第4世代移動通信システム(4G)を利用し、超高速通信を行う「スモールセル」には周波数4.9GHz(ギガヘルツ)以下の帯域や28GHz帯を使う計画だ。
無線周波数電磁波のうち30〜300GHzをミリ波、20〜30GHzを準ミリ波とも呼び、28GHzは準ミリ波にあたる。周波数が高くなるほどエネルギーが強くなる性質があり、米軍は95GHzのミリ波を暴徒鎮圧用の兵器「アクティブ・デナイアル・システム」に利用している。
ミリ波を使った動物実験では白内障などの目の異常が、ヒトの細胞を使った実験では遺伝子発現の変化、細胞膜機能の変化などが確認され、とくに子どもへの悪影響が懸念されている。
5Gでは、同時に複数のユーザーが超高速で通信できるようにするため、多数のアンテナの強さやタイミングを調整して、指向性のある電波を作り出す「ビームフォーミング」を行う。送信側も受信側もアンテナを1本ずつで通信するよりも、アンテナの数を増やせば、通信速度を早くすることができるが、5Gでは100本以上のアンテナを組み込んだ超多素子アンテナ「マッシブMIMO(マイモ)」の利用も計画されている。
なお、5Gでは多くの端末と同時に接続できるので、5Gを利用した防犯・監視システムの実証実験も計画されている。通信会社などが設立した第5世代モバイル推進フォーラムによると、イベント会場や空港などの広域監視カメラや警備員のウェアラブルカメラ(体に装着してハンズフリーで撮影できる小型カメラ)などの映像を集約して、群衆行動の監視や顔認証などを実施し、リアルタイムで安全管理を行うとされている。しかし、これは社会的な監視の強化につながる可能性がある。
(2)アメリカでも5G導入を巡り賛否
アメリカのミシガン州議会では、5Gのスモールセル導入を促進するために都市開発を規制する条例改正などを求める法案が2018年3月に提案された。支柱を新設するには自治体への申請が必要だが、認可に係る経費を1000ドル(約11万円)以下とすることや、事業者の連絡先をアンテナの支柱に表示することも提案されていた。10月4日には、エネルギー政策委員会で公聴会が開かれ、2人の専門家が意見を述べた。
その一人は医師のシャロン・ゴールドバーグ博士だ。無線周波数電磁波が生物学的な影響を持っていることは、多くの医学文献で示されており、その影響は植物や動物、昆虫、微生物などあらゆる生命体で見られ、DNA損傷や心筋症、神経精神医学的な証拠があると訴えた。「5G導入は、有害性がわかっている技術を検査せずに利用することだ」と批判した。
カナダ、マックギル大学のポール・ハーロウ博士は、ロイズ保険組合などの再保険会社は、無線周波数電磁波の健康リスクは非常に大きく、人々を被曝させる事業者は集団訴訟で完敗するだろうと考えていることを指摘し、5Gやレーダーを搭載した自動運転車に対する集団訴訟が起きる可能性があると警告した。「無線周波数電磁波を家庭に導入するのは間違った考えだ。全家庭に光ファイバーが必要だ」と証言した。
アメリカ小児科学会をはじめ約190人の医師や研究者も「5Gの電磁波の健康影響は重大で、数千件に及ぶ論文で立証されている」として5G導入に反対する声明を委員会に送ったが、ミシガン州議会は11月に5Gを促進するための法案を可決し、12月には発行している。
一方、カリフォルニア州のフェアファックス町議会は、スモールセル・アンテナを住宅地に導入するのを禁止する条例を採択している。同州のサン・アンセルモ議会は、スモールセル・アンテナの設置計画を90m以内の住民に知らせるよう求める条例を採択した。また、約100mごとにスモールセル・アンテナが設置されることから、景観悪化を理由に反対している住民もいる。
(3)日本の携帯電話基地局規制条例
日本でも90年代以降、携帯電話基地局の設置をめぐって健康被害を懸念する住民の反対運動や訴訟が各地で起きている。そのため、携帯電話基地局の設置を規制する条例を制定する自治体も現れた。
例えば、神奈川県鎌倉市では携帯電話等中継基地局の設置等に関する条例が2010年に制定されている。基地局を設置する際は、基地局の高さの2倍の範囲内の住民や自治会に説明することを求めている。
また宮崎県小林市では、携帯電話基地局に近い保育園で園児が鼻血を出すなどの体調不良が頻発したことから住民運動が起き、携帯電話等中継基地局の設置又は改造に係る紛争の予防と調整に関する条例が2015年に制定されている。鎌倉市と同様に、基地局の高さの2倍の範囲の住民に説明を行うことや、着工の7日前までに計画概要を記した標識を立てることなどを求めている。
しかし、5Gのスモールセル・アンテナは街灯やバス停、電柱などに設置されるので、支柱の高さは2〜3m程度しかない。つまり、高さの2倍の範囲といっても6m程度に限定される。また、マンホール型基地局のように地下に設置される場合も、従来の基地局規制条例では規制できないことになる。とくに電磁波の影響を受けやすい胎児や子ども、電磁波過敏症発症者を守るために、せめて住民への事前説明と合意が必要だろう。
日本弁護士連合会も2012年に、電磁波問題に関する意見書を政府に提出し、基地局を新設する場合には住民との協議を行う制度を設けること、基地局の位置情報などを知るための情報公開制度、基地局や高圧送電線周辺で住民の健康調査を実施すること、電磁波過敏症発症者のために人権保障の観点から、公共交通機関に携帯電話の電源を切らなくてはいけない「電源オフエリア」を設けることなどを求めている。
スモールセル・アンテナに関する規制がなければ、自宅や学校、病院の周辺、子どもたちの通学路や通勤で使う道路に、知らない間に設置されて被曝することになる。アンテナ周辺の住民に健康被害が発生するほか、道路を通行中に体調不良が起きる可能性もある。人体や生態系に悪影響を及ぼすことが指摘されている5Gを、推進する必要はあるのだろうか。少なくとも安全性が確立されるまでは導入を一時停止すべきではないか。
なお、学校にも超高速無線LANが導入されるなど、子どもの被曝は増える一方だ(拙著『シックスクール問題と対策』で詳述)。
家庭にはスマートメーターが設置されているが、このメーターは無線周波数電磁波を使って電力使用量を電力会社に送信する。日本だけでなく世界各国で頭痛や不眠、耳鳴りなど、電磁波過敏症によく似た健康被害が発生している。電力使用量を電気検針員が確認に来る従来のアナログメーターに変更したり、家庭や学校の無線LANを有線に切り替えたりするなど、無線周波数電磁波を避けて少しでも被曝量を減らすことが、健康を守る上でますます重要になってくるだろう。【出典:リベラル21】
【注】文中の写真は、オリジナルの原稿に「全国ネット」で加えたものです。