「電磁波」被曝による発ガン影響

■電磁波環境研究所

電離放射線を含む「電磁波」被曝による発ガン影響に関しては、以前から多数の研究報告があります。弱い被曝で悪影響が「存在する」とした場合に、その作用が「プロモーター」なのか、「イニシエーター」なのかが問題になっていました。

前者は「ガンを補助・成長する促進作用を担う役割を持つ場合」であり、後者は「DNAなどに傷を付けて直接的にガンの原因となる場合」です。広島や長崎の被曝者の発ガンに関してもこの問題は重要テーマなのですが、電磁波問題でも同様に指摘されていて1990年前後から色々な研究が行われてきました。

「プロモーター作用」では、送電線周辺での小児白血病の増加論文であるKabuto論文(2003)が有名で、「0.4μT以上の被曝で小児白血病が急増加を示した」からでした。「イニシエーター作用」であれば「少しずつの増加傾向を示す」と思われたからです。

また、この問題は携帯電話の大普及と共に注目されるようになり、最近でも「脳腫瘍の増加」に関して「弱い被曝下での増加傾向はプロモーター作用ではないか」との論文も発表されています。プロモーター作用を調べるために、まず発ガン物質を動物に与え、その上で電磁波を被曝させて「更なる増加の促進」を研究することが行われ始めました。

細胞レベルなどで「促進する」との研究もあったのですが、日本で行われた3件の動物研究ではいずれも「促進されない」という結果でした。その研究は名古屋市立大学の白井智之・教授グループで行われ、Imaida論文(2001)/Shirai論文(2005)/Shirai論文(2007)として発表されています。この3件の論文の表題中には「Lack of promotion」「not Promote」「Lack of Promoting Effects」の英文が使用されているように「プロモーター作用を否定」する内容でした。

「ARIB(電波産業会)」や「総務省」からの資金で行われた研究ですが、特にShirai論文は、500匹ものラットを使用し、「発ガン物質」で「イニシエーター作用」のある「ENU:エチルニトロソ尿素」を投与して被曝実験がなされ、脳と脊髄組織のみに限定して発ガンを調べたのです。

そして「国際非電離放射線防護委員会ICNIRPのガイドライン値以下の被曝ではプロモーター作用はない」との結果でした。白井教授は総務省や厚生省の委員でもあり、その後、
医学部長にも就任されたはずです。ところが、それと類似の詳細な実験が2015年に発表され、再び危険性が話題になってきましたので、その論文を紹介します。

★Alexander Lerchl論文:Biochem.Biophy.Res.Comm. Vol.459,p585~590(2015).

政府放射線防護局の援助を受けたドイツの論文で2015年4月に発表されたマウスでの実験です。以前に弱い携帯電話電磁波の被曝で「プロモーター作用」を報告していた「Tillmann論文(2010)」が正しいのかどうかを確かめる目的もあったようで、大脳・肺・肝臓・腎臓・脾臓・リンパ組織での発ガンを調べています。

「Tillmann論文」では電力密度のみの「ENU+0.48mW/cm2」で雌マウスに照射し「生まれた子の肺ガンが増加する」との結果を示していましたが(ICNIRPのガイドライン値は1mW/cm2)、「Shirai論文」の場合のような「SAR値」ではないので、新たに「SAR値」での「Lerchl研究」が行われ、「Tillmann論文」の共著者達もその研究に参加しています。

その「Lerchl論文」の結果を図に示しましたが、図中にのみ邦訳を追加しています。

■「Lerchl論文」の結果を図PDF

4つの腫瘍とも「ENUのみ」よりも「ENUと電磁波被曝」の場合で明らかな増加を示していて、強度もICNIRPの「SARガイドライン値:2W/kg(日本の規制値でもあります)」よりも弱いことがわかります(mWはWの千分の1)。

図中の「ゲージ:比較群」は「同じ型のゲージでの飼育」を、「ニセ照射」は「照射しない場合」を意味しています。p値は信頼度を示していて、P値の低い方が信頼度が高くなります。

この「Lerchl論文」は米国の「Microwave News」誌にも詳しく紹介されて話題になりましたが、そこで紹介された「図」は「リンパ腫瘍」の場合のみでした。その図を見ると、「2W/kg」での「発生率」が大幅に低下していて、「2W/kgよりも低い被曝強度の方が危険性が高い」ことを示していますので、それを強調したかったのかもしれません。

また、実験後には実験動物を殺して体内の発ガン状況を調べるのですが、何故か「Shirai論文」では「脳と脊髄のガンのみ」を調べたようなのです。同じ実験をした白井教授からの「Lerchl論文」への反論が「同じ雑誌に掲載されるだろう」と期待していたのですが、ありませんでした。

この文章を書くために白井教授のことを調べていた最中のことでしたが、白井名誉教授が「11月19日にお亡くなりになった」ことを知り驚きました。何故、こんなに異なる結果になったのか・・をぜひ知りたいと思っていましたので、本当に残念に思ったことでした。

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