■電磁波環境研究所
電磁波被曝による「精子・精巣などへの影響」に関する論文は、送電線や電化製品からの極低周波被曝で31件、携帯電話などの高周波被曝では114件もあり、その多くは悪影響を指摘していて、「発ガン」と共に関心の高い問題の1つです。
それらの研究にはラットやマウスなどの動物を対象にした研究が多いのですが、「人の精子」を対象にしたり、極低周波被曝と高周波被曝とを比較するなどの研究も現れてきていますので、「最近の話題から」としてその様な研究を簡単に紹介することにしました。
★Adel Zalata論文:Int.J.Fertil.Steril., Vol.9(1) p.129~136(2015).
これはエジプトのマンソーラ大学とカイロ大学の論文で、人の精子を実際に外部へ取り出して影響を調べた珍しい研究です。先進国ではこの様な研究をすることが難しいのですが、インドやエジプトなどでは精子の購入?入手が簡単なようです。
人の精子を4種類の「正常な精子(N:26試料)」「精子無力症の精子(A:32試料)」「運動形態に異常のある精子(A:31試料)」「異常や奇形のある精子(OAT:35試料)」に分類し、それを更に2つに分けて、片方は未照射で、片方は携帯電話の電磁波を1時間だけ照射して変化を比較したのです。
結果は、「照射群」では精子の「運動活性」「直線速度」「蛋白質分解酵素活性」の低下が統計的に明白であり、「DNAの断片化形成」「精液クラスティン遺伝子発現」「精液クラスティン蛋白質レベル」では統計的に明白な増加を示していました。
「非照射群」と比べ「照射群」での変化は、OAT>AT>A>Nの順であり、特にOATの場合の変化が大きくなっています。変化の例として、「DNAが断片的に崩れる」という「精子DNAの断片化形成」の増加率(%)を紹介しますが、「非照射群⇒照射群」での変化が「N:11.5%⇒30.8%」「A:18.8%⇒56.3%」「AT:29%⇒71.0%」「OAT:40.0%⇒80%」と大幅な増加を示しています。
★Weixia Duan 論文:Radiation Research, Vol.183 p.305~314(2015).
この研究は、中国・重慶市にある「第3陸軍医学大学」の報告で、国際非電離放射線防護委員会ICNIRPのガイドラインなども掲載されることで知られている著名な雑誌に発表されています。雄マウスで精子を作りだす「精母細胞」から取り出された「GC-2型の精原細胞」に、50Hzの極低周波強度1mT,2mT,3mTを被曝させた場合と、1800MHzの高周波(携帯電話)強度SAR値=1W/kg,2W/kg,4W/kgを被曝させた場合での影響を比較した論文です。
「GC-2型細胞」に断続的な(5分間ONで10分間OFF)電磁波を24時間照射し、その後に細胞活性、彗星(コメット)分析、蛍光分析などで影響を調べています。その結果、3mTの場合に「DNA損傷」が見いだされ、4W/kgの場合にも「酸化DNA損傷」が明白に見いだされました。
ICNIRPガイドライン値よりも少し高い強度の場合ですが、異なる周波数の電磁波被曝での「遺伝子毒性効果メカニズム」が「異なる可能性のあること」を論文は指摘しています。
このような極低周波と高周波とでの影響比較研究が進むことで、今までに明らかになっていない影響メカニズムの解明が進むことを期待したいと思います。