【書評】加藤やすこ著『スマートシティの脅威』、地上から宇宙へ、エスカレートする電磁波公害の新しい視点を提供

電磁波の工業利用に歯止めがかからない。かつて電磁波問題といえば、高圧電線や変電所、あるいは携帯電話基地局の直近に住む住民が受ける人体影響の検証が主流を占めていた。家電からもれる電磁波も議論の的になっていた。

しかし、このところ電磁波問題の全体像が変化してきた。宇宙を飛行する無人の基地局が電磁波の放射源となり、地球全体を汚染する時代の到来が秒読み段階に入り、その安全性を検証することが電磁波問題の新しい視点として登場した。従来とは比較にならないほど、広い視野が求められるようになってきたのだ。

本書はそんな時代を見据えて、電磁波による健康被害はいうまでもなく、プライバシーの危機なども総括的に捉え、新世代公害に警鐘を鳴らしている。

総務省は、「二〇三〇年から始まる6Gや高度化された5G「5GEvolution」では、ミリ波よりさらに周波数が高いテラヘルツ(周波数300GNz~3THz)を使って、地上、海、空、宇宙を繋ぐ技術開発と整備を同時に進める方針」を打ち出している。実際、電話会社はすでに、無人飛行機のテスト飛行を行っている。

利便性の観点からこうした動きを捉えると、バラ色の未来が待ち受けているかのように錯覚しかねないが、人類が経験したことのない強力な電磁波による人体や自然界への影響という点から未来を描くと、実は恐ろしいことが進行していることに気づく。スーパーシティ構想の実現や、子どもにタブレットを持たせることが豊かな未来へ繋がるとは限らない。逆に悲劇を生む可能性の方が高い。

もっとも懸念されるのは、電磁波の安全性を宣言できるだけのデータが集まっていないことである。見切り発車が繰り返されているのである。とりわけミリ波の研究は遅れていて、「現状では、リスク評価ができるだけの科学的な証拠すら存在しない」。

幸いに電磁波の工業利用に抗する動きもある。2000年12月、東京都多摩市は、5G規制条例を趣旨採択した。欧米では、たとえばオランダが「潜在的な健康リスクが調査されるまでミリ波を使用しないこと」を決めた。米国では、条例で5G基地局の設置を規制する自治体が増えている。

電磁波という新世代公害にストップをかける鍵を握るのは住民運動である。本書は、そのために必要な電磁波についての科学的知識を提供してくれる。

タイトル:「スマートシティの脅威」
著者:加藤やすこ
版元:緑風出版

カテゴリー: 未分類 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です