執筆者:黒薮哲哉
携帯電話の基地局設置をめぐる問題で、最近、新しい側面が浮上している。電話会社が地方自治体と連携して、学校や公園などの公有地に基地局設置を進める流れが生まれはじめていることである。多くの地方自治体が、無線通信網の整備という観点から、電話会社の携帯ビジネスに協力するようになっているのだ。総務省が設定したマイクロ波の安全基準を守って操業するのであれば、電話会社に公有地を提供しても問題がないという観点を打ち出しっているのである。
が、その安全基準はデタラメだ。欧州評議会が勧告している基準の1万倍もゆるやかなもので、実質的には規制になっていない。
わたしが在住する埼玉県朝霞市の場合、基地局が設置された公有地は5カ所ある。そのうちの一ヶ所が、わたしの自宅近くにある城山公園だ。ここには、KDDIの基地局が設置されている。他の4か所については、設置場所も電話会社名もわからない。市に問い合わせても、電波に関する情報は公開しないルールになっているので、教えられないという。住民よりも電話会社の利益を優先しているのである。
KDDIが朝霞市に支払う土地の賃借料は、年間で4300円。月額にすると360円程度である。私有地の場合(マンションの屋上)は、年間賃借料が50万円から80万円程度であるから、KDDIにとって公有地を利用することは、賃借料の大半を免除されることを意味する。朝霞市長が市に損害を与えている構図である。朝霞市民は、市長に対して賃借料の差額を市に支払うように求めて損害賠償裁判を起こすこともできる。
朝霞市のほかに、これまでわたしが確認した公有地への基地局設置例としては千葉市の例がある。他にも複数の自治体住民から通報を受けているが、現地を取材していないので、現時点での言及は避ける。(また情報提供を求める。xxmwg240@ybb.ne.jp)
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KDDIが朝霞市の城山公園に基地局を設置したのは、昨年(2020年)の8月だった。工事に着工したのは6月だったが、わたしが工事現場を発見して、工事の中止を申し入れたところ、KDDIは、工事をペンディングにした。申し入れの翌日には、機材や重機を現場から搬出し、現場に住民が立ち入らないように柵を設置した。
その後、朝霞市やKDDIと電話やメールで交渉したが、彼らに計画を中止する気はないようだった。総務省の安全基準を守って操業する限りは、電話ビジネスを推進する権利があると繰り返すのだった。KDDIに対しては、基地局に関する詳細な情報を全面開示するように求めたが、企業秘密に属する事項なので応じられないという。
その後、膠着状態が続いた。KDDIが朝霞市から許可を得ている工事期間の期限は8月末だった。期限切れというかたちで、KDDIは計画を中止するのではないかと、わたしは予測していたが、この予測はずれた。KDDIは電話ビジネスへの執念を露呈することになる。
突然、工事を再開したのだ。朝霞市に対しては、工事の再開を通告したが、わたしには通告しなかった。たまたまわたしが公園の近くを通りかかったとき、重機の轟音でKDDIが一方的に工事を再開したことを知ったのである。
シャベルカーが穴掘り作業を続けていた。公園の敷地内には、すでに基地局の巨大なポールが搬入されていた。一方的な工事再開だったので、現場監督に抗議した。しばらく言い争っていると、パトカーがやってきた。警察を交えた話し合いになり、KDDIと警察は、工事許可を市が受理しているので工事再開は問題ないと主張した。
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一方的に基地局が設置された場合、設置作業の印象がトラウマになることがある。そんな実態をわたしはこれまで何件も見てきた。
わたしもこの工事再開には屈辱を感じた。重機が轟音を響かせ、自分の目の前で堂々と基地局設置作業が断行されたことで、尊厳を踏みにじられた。取材と報道を続けても、われわれは何の痛痒も感じません、と宣言されたような気がした。
NTTによる総務省接待が問題になった後、わたしは朝霞市とKDDIに次のメールを送付した。
『 朝霞市長:富岡勝則様
みどり公園課:大塚様
KDDIエンジニアリング:藤田様
総務省と電話最大手・NTTの癒着が明るみにでました。15日には、国会でNTTの澤田純社長が参院予算委員会に参考人招致されます。
これまで貴殿らは、総務省の電波防護指針を根拠として、KDDI基地局の安全性を主張してこられましたが、見直す必要があるのではないでしょうか。両者の癒着が明らかになった以上、方針を変更されるべきだと考えます。朝霞市にある通信基地局に関する情報も全て開示されるべきだと考えます。この点について、市としての見解を教えてください。
改めて城山公園のKDDI基地局を撤去するように求めます。』
現時点で回答はない。